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はしとはし ― 100のお箸の物語 ― ________________________________________ 第1話:『箸の声を聞いた日』
はしとはし
― 100のお箸の物語 ―
この物語は、ある日の食卓から始まります。
いつもの「いただきます」。
でも、その日だけ、少しだけ違っていました。
第1話:『箸の声を聞いた日』
ぼくは、その日、
いつもどおりに座っていました。
しろいごはん。
みそしる。
やいたさかな。
「いただきます」
そう言って、
ぼくはおはしを持ちました。
コトン。
おはしが、おわんにふれました。
でも――
それだけじゃない気がしました。
ことん。
さっきより、
やわらかい音でした。
「ねえ」
ぼくは、手をとめました。
いまのは、
だれの声だろう。
「ちゃんともってくれて、ありがとう」
ぼくは、
ゆっくりとおはしを見ました。
だれもいない。
でも、たしかに聞こえた。
「だれ?」
すこしだけ、間があって。
おはしは、
やさしく言いました。
「わたしたちはね――」
すこし、
うれしそうに。
「橋なんだよ」
「はし?」
ぼくは、聞き返しました。
「うん。橋」
「食べものと、きみをつなぐ橋」
そのとき。
ごはんのゆげが、
すこし光りました。
みそしるの中に、
森のにおいがしました。
さかなのむこうに、
遠い海が見えた気がしました。
ぼくは、
なにも言えませんでした。
「きみはね」
おはしが、そっと言いました。
「命を食べているんだよ」
ぼくの手が、止まりました。
「だからね」
「人は言うんだ」
すこし、ゆっくりと。
「いただきますって」
「どうしたの?」
おかあさんの声がしました。
ぼくは、
すこしだけ息をのみました。
気がつくと、
いつもの食卓でした。
ゆげも、
ただのゆげにもどっていました。
でも。
ぼくは、知ってしまいました。
おはしは、
ただの道具じゃない。
ぼくは、もういちど言いました。
さっきより、ていねいに。
「いただきます」
その夜。
ねむる前に、
ぼくは目をあけました。
まくらのそばに、
小さな光がありました。
「また来るよ」
あの声でした。
ぼくは、
なにも言えませんでした。
でも――
すこし、
楽しみになりました。
その日、ぼくは「いただきます」の意味を知った。