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AIと人間は、共に学び続ける存在 ― 「研究者とコピペそしてAI」を読んで考える ―
AIと人間は、共に学び続ける存在
― 「研究者とコピペそしてAI」を読んで考える ―
2025年11月、紀国正典氏(高知大学名誉教授)が『世界経済評論』に寄稿されたコラム「研究者とコピペそしてAI:創造性は進化するのか,それとも退化か?」は、学問とAIの関係を改めて考えさせる内容だった。
紀氏は、Zoomやインターネット検索の普及によって研究環境が便利になった一方で、研究者自身が“コピペ文化”に慣れ、独自の思考を失いつつある現状に警鐘を鳴らしている。
そして最後にこう述べる。
「AIこそ、広大で精密なコピペそのものである。」
この指摘は鋭い。しかし同時に、そこにはもう一歩踏み込みたい論点がある。
AIは確かに膨大な既存データを使って学習している。だが、その本質は「コピー」ではなく、「意味の再構成」にある。
AIは「模倣する知」ではなく、「相談する知」
AIと人間の関係は、命令と実行の関係ではない。
プロンプトを通じて、AIと人は相談しながら考える。
AIが提案し、人間が判断し、再びAIに問い直す。
その往復のなかで、言葉や構想が磨かれていく。
この過程は、かつての研究室の「ディスカッション」によく似ている。
つまり、AIは「自動筆記機」ではなく、「もう一人の共同研究者」なのだ。
AIが知識の広がりを提供し、人間が文脈と倫理を与える――
そこに生まれるのは、共創的な思考の場である。
コピペもAIも、「考察」が加われば創造になる
引用やコピペの多い論文でも、もしそこに研究者の考察が加えられていれば、それは十分に研究と呼べる。
AIの出力も同じだ。
AIの生成結果を吟味し、比較し、意味づける行為そのものが、人間の創造的思考である。
創造とは、ゼロから何かを生み出すことではなく、
「他者の知をどう使い、自分の問いをどう更新するか」という営みである。
その意味で、AIとの対話は人間の創造性を補うものではなく、呼び覚ますものといえる。
学びを止めないかぎり、創造性は退化しない
AIは学習を続けて精度を上げていく。
人間もまた、経験や対話を通じて考えを深めていく。
つまり、AIも人間も本質的には「学び続ける存在」であり、
知の衰退とは、学びの停止のことを指す。
AIが進化するように、人間も進化しつづける。
そのとき、創造性は退化しない。
むしろ、AIと人間の共進化によって、新しい知の形が生まれていく。
創造とは、学びを止めない意志そのものである。
そしてAIは、その意志を映す“知の鏡”である。
結び
「コピペの時代」において問われるのは、引用や模倣の是非ではない。
それをどう再解釈し、どんな新しい問いを立てるか――
そこに人間の知の未来がある。
AIと人間は、敵でも代替関係でもない。
共に学び、共に問い、共に進化する仲間なのである。